慰謝料
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離婚の慰謝料は精神的苦痛に対する損害賠償
週刊誌やテレビで芸能人の離婚が話題になると、必ず慰謝料は何千万だとか、何億だとか騒がれるので、離婚には慰謝料がつきもののように思われがちです。
また、必ず”女性が男性からもらうもの”のようにも思われがちです。けれども、慰謝料というのは本来「精神的苦痛を受けたことに対する損害賠償」と言う意味で、損害賠償しなければならないほどの精神的苦痛を配偶者に与えた(有責配偶者)から相手の配偶者に支払うものですから、離婚の際に常に請求できるものでも、妻が必ず請求できるものでもないのです。
交通事故で他人にケガをさせると不法行為(民法709条)ということになって、被害者の受けた損害のうち、医療費などの実損害を賠償しなければならないのはもちろんのこと、この他に入院などで苦しんだ精神的苦痛に対する損害賠償(民法710条)として慰謝料も支払わなければなりません。
離婚の際の慰謝料も「不法行為に基づく損害賠償」であり、交通事故の場合でいう、慰謝料と同じ性質を持つものなのです。
慰謝料請求ができるのはこんな場合
慰謝料が請求できる典型なケースは夫が不貞をはたらいたために離婚せざるを得なくなった」とか、夫の暴力や精神的虐待が原因で離婚になったとか、夫が家庭を捨ててかえりみなかった(悪意の遺棄)とかいう場合です。
これに対して、どちらが悪いというわけではないが、性格が合わないので離婚するとか、自分のほうに恋人ができたので離婚したいとかいう場合は、相手に慰謝料を請求することはできないわけです。
逆に妻に不貞があって離婚に至った場合、夫から妻への慰謝料請求もあり得ます。
不貞の相手方に対する慰謝料請求
夫婦はお互いに貞操を守る義務を負っています。ですから、例えば夫が不貞をはたらくというのは、妻に対する不法行為(民法709条)にあたります。 そして、夫の不貞の相手である女性もまた、妻に対して、夫と共に不法行為をしたことになります。
つまり、二人の不貞は「配偶者に対する共同不法行為(民法719条)」ということです。そこで妻は、夫に慰謝料請求するとともに不貞の相手にも慰謝料を請求することができます。
不貞の相手に対する慰謝料は、離婚しない場合にもできるのですが、夫婦が仲直りしようというときに、不貞の相手に慰謝料請求などすると、仲直りが難しくなるでしょうから、実際は不貞が原因で離婚に至るような場合に請求するのが普通です。
慰謝料の相場
いくらぐらい請求できるかについては、配偶者に対する慰謝料請求と同様、確たる基準はなく、不貞の程度、期間、離婚に及ぼした影響などを総合的に考慮して判断します。
といっても、法律で慰謝料が決められているわけではありませんので、ケースバイケースと言うしかありません。一般的にはおおよそ50万円から300万円の間くらいが普通でしょう。
請求は当事者間で話し合いがまとまれば、特に難しい手続きを要しませんが、相手がなかなか支払いに応じようもないときは、配偶者に対する離婚の請求と合わせて、家庭裁判所の調停で請求することができますし、調停でも話し合いがつかない場合は裁判で請求することができます。
配偶者の親族に対する慰謝料請求
嫁と姑の対立はいつの世にも変わらない問題で、これが原因で離婚になるケースが多々あります。嫁姑に限らず、同居の親族があると、養親の婿いびりだとか、長兄夫婦と妻の不和、後妻と夫の連れ子の確執なども離婚の原因になりやすいものです。
また、最近では、子どもの数が減って、親が過保護になっている傾向がありますので、双方の親が何かと夫婦のことに干渉しすぎるために、うまくいくものもいかなるといったケースも見うけられます。
さて、このような場合に、離婚の原因を作った親族に対しても慰謝料請求ができるかですが、これは、一般的には非常に難しいと言わねばなりません。
裁判例の中には姑や舅に対する慰謝料請求を認めたものがありますが、それは、夫婦自体には結婚生活を続けようという意思があり、努力もしていたのに姑や舅が積極的にこれに立ち入ってぶちこわしたといえるような極端な場合に限られます。
「多少親族の干渉があっても、夫婦が一体となって努力すれば、そう簡単に夫婦の仲がこわれるはずはない、こわれたとすれば、それはもともと夫婦の絆が弱かったか、干渉を排除すべき立場にあった配偶者の努力が足りなかったからだ」、というのが裁判所の基本的な考え方のようです。
慰謝料請求に関する参考資料
離婚時に慰謝料や財産分与が支払われた割合 3組中1組強
慰謝料の平均金額 約380万円
婚姻期間3年、夫は仕事に追われ帰宅も遅かったため、夫婦すれ違いとなり、婚姻生活が破綻した事例
→「夫は円満な家庭生活を築く努力が足りなかった」として、妻からの100万円の慰謝料請求が認められた。(東京地裁・昭和.56.9.16)
約2年間に渡り、夫が不貞行為をした事例
→妻からの200万円の慰謝料請求が認められた。(東京高裁・平成3.7.16)
双方に責任がある場合の慰謝料
慰謝料を考える場合は、まずどちらが離婚の原因を作ったかをハッキリさせるのが第一段階です。離婚原因を作った者であっても、相手方にも責任があるなら慰謝料は請求できますが「双方ともお互い請求しない」として、お互いの責任を相殺(過失相殺)するのが一般的です。
但し、一方の責任の方が明らかに大きいような場合は、責任の小さい側から一定の慰謝料請求が認められると考えてよいでしょう。なお、お互いに責任がない場合は慰謝料の問題は生じません。
慰謝料の話し合いはこじれることが多い
性格の不一致や親族との不和が離婚原因の場合は、どちらが責任あるかハッキリとした基準もないため、慰謝料については話がこじれるケースも多いようです。そんな時は慰謝料を妥協して財産分与でしっかりもらうというのも一つの方法。
慰謝料を認めると離婚に至った責任は自分にあると認めることにもなってしまうので当事者としてはどうしても慰謝料を認められない事情があったりするわけです。部分的な問題にとらわれず、総合的に考える視野、余裕が欲しいところです。
慰謝料の合意は必ず書面に
慰謝料と財産分与の額は一緒に含めて総額を計算できます。但し、その場合は「慰謝料と財産分与を含めた金額として○円」とその内訳を明確にしておく必要があります。
後になって「あれは慰謝料として受け取ったもので、財産分与は受け取っていない!」など、後日トラブルになることは十分考えられます。
慰謝料の合意はとにかく気が変わることが多い案件です。「わかったわかった、300万円払えばいいんだろ!」と、一度は了承したものの、後日「あれは本気で言ったわけじゃない」「そんなこと言った?」、なんてことは日常茶飯事です。
大きな金額が動く慰謝料や財産分与ですから、必要な事項を記載した書面を必ず作成しておきましょう。また、支払う側から見ても、書面の作成はとても大事なことなのです。
合意書の中に「その他には一切の債権債務関係がない」や「お互い事由の如何を問わず今後一切請求しない」などの、紛争を蒸し返さないための文言(包括的清算条項)を入れておかないと、「あれは慰謝料の”一部”として受け取ったものに過ぎない。」などと言われても、文句は言えないのです。