財産分与
目次
財産分与とは
結婚後、夫婦が協力をして築き上げた財産(共有財産)を離婚時に清算をすることを”財産分与”といい厳密にはこれを「清算的財産分与」と言います。
ただ、法的にはこの清算的財産分与だけでなく「扶養的財産分与」「慰謝料的財産分与」という、法的性質の異なる財産分与もありますので、それらを区別しておきましょう。
清算的財産分与
一般的に”財産分与”と言われているものは、婚姻期間中に夫婦で築き上げた共有財産を清算する財産分与のこと指し、法律的には清算的財産分与といいます。
財産の名義や権利が、夫や妻のどちらか一方のものであったとしても、財産を築くには夫婦の協力があったと考えられ、裁判などでは貢献度の割合により財産を分配する方法が採用されています。
扶養的財産分与
離婚後の扶養を目的とした財産分与のことを「扶養的財産分与」といいます。これは、離婚に際して、配偶者の一方に経済的な不安がある場合、経済的援助という形で他方の配偶者が生活費をサポートする形のものであり、その金額を決める際は次のような事情が考慮されます。
- 年齢、健康状態、資産等による離婚後の生活の見通し
- 再就職の可能性
これらの事情を前提として「請求者が生計を維持できる程度」で財産分与が認められるとするのが判例の立場です。なお、扶養的財産分与が認められる場合と、認められない場合は次のとおりです。
扶養的財産分与が認められる場合
- 長年専業主婦だった妻が高齢(病気)等で職に就けない
- 幼い子供を一人で養育しており職に就けず生活が困窮している
- 清算的財産分与や慰謝料が少額で生活を維持できない
扶養的財産分与が認められない場合
- 請求者には生計を維持できる資力(収入・資産)がある
- 分与を請求される側に一方を扶養できる経済的余力がない
慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与は精神的損害に対する賠償という性質を持つ財産分与です。従って、精神的損害がないような場合は慰謝料的財産分与は発生しません。
一般的に、財産分与に慰謝料も含めてしまうことが多く、最高裁判所も財産分与に離婚による慰謝料を含めることを認めています。
財産分与に慰謝料が含まれて、精神的な損害に対して十分に補てんがされている場合、原則として配偶者の不貞行為等を理由に慰謝料を請求することはできません。
但し、慰謝料的財産分与を含めて財産分与がされていたとしても、精神的苦痛に対して十分に補てんされたとはいえないと認められる場合には、別に慰謝料を請求することができます。
慰謝料的財産分与の注意点
慰謝料的財産分与は「財産分与」といいながらも、実質は「慰謝料」であり、後日トラブルになるのは「慰謝料を含んだ財産分与」なのか「慰謝料を含まない財産分与」なのかという点です。
離婚協議書に財産分与とだけ記載しても、それが慰謝料を含んでいるのかそうでないのか、書面上明らかにならず、後日紛争になる可能性もあるということですね。
細かいことのようですが、慰謝料を含んだ財産分与をしたのか、そうでないのか、後日の紛争を回避する為にも明確にしておきましょう。
財産分与の対象財産
財産分与はあくまでも離婚の際に現にある資産で、しかも夫婦が結婚してから築いた資産を対象とします。そのため、結婚してからわずか数ヶ月で離婚する場合とか、長年連れ添ってきたが何の蓄えもないとう場合には財産分与がゼロということもあり得るのです。
また、夫名義の土地や建物がたくさんあっても、それが夫の父から相続した財産である場合には財産分与の対象にはなりません。
ただし、離婚後の扶養や慰謝料を含む意味の財産分与では婚姻後築いた財産がなくとも例外的に夫が親から相続した財産についても分与が認められる場合もあります。
不動産の財産分与
財産分与は夫婦の間に現にある資産の分配です。従って、金銭の請求に限らず、不動産などの物で請求することもできます。
資産がたくさんあって「妻が自宅を取得する代わりに夫は別荘を取得する」などということができればよいのですが、唯一の資産が自宅で他には何もないというような場合には、少々面倒なことがおきます。
離婚した夫婦が一つの不動産を共有するということは現実には難しいからです。このような場合は、どちらか一方が不動産を取得する代わりに、他方に対しては、2分の1に相当するお金を支払うか、または不動産を第三者に売ってその代金を2分の1ずつに分けるかするのが適当でしょう。
財産分与の分割払い
財産分与の支払いは原則として一括払いですが、当事者が合意すれば分割払いの方法を取ることもできます。財産分与は本来「現にある資産の清算」なので、分割払いということはあり得ないように思われます。
ところが「夫が不動産をまるまる取る代わりに妻には金銭で財産分与を支払う」というようなケースでは一括払いで払うのが難しく、分割で支払うということもあり得ます。
また、総額の点から言っても、できるだけ多く相手に支払わせるためには、分割払いの方が相手が応じやすいというメリットもあります。
ただ、あまりに長い期間にわたる分割払いは、途中で相手に支払う意思がなくなったり、事情が変わって支払えなくなったりすることも多いので避けるべきです。
離婚後、夫が再婚して、新しい妻に子どもができたりすると、よくこうした問題が起きます。離婚後の誠実な履行が期待できないような場合には多少総額の点で低くなっても、一括払いのほうを選ぶべきでしょう。
離婚成立前の保全処分
離婚話が持ち上がるような夫婦は既にお互いの信頼関係が壊れてしまっていて、夫が妻に取られないようにわざと不動産の名義を他人名義にしたり、定期預金を解約して妻に分からない口座に隠してしまったりすることがままあります。
また、特に妻に取られまいとするつもりはなくても、夫の浪費や借金が原因で離婚したいとうような場合は、離婚前に夫が財産を処分してしまったり、抵当に入れたりすることが、大いに考えられます。
そうなっては、いざ離婚しようというときには、妻が取れるものは何も残っていないとういうことになってしまいます。そこで、このような危険のある場合には、夫名義の財産に対して「仮処分」や「仮差押」をしておく必要があります。
「仮処分」や「仮差押」というのは、妻が財産分与請求権や慰謝料請求権に基づいて、家庭裁判所や地方裁判所に、調停や判決で財産分与や慰謝料が決まるまでの間、夫の財産を仮に差し押さえるとかの命令を出してもらう制度です。
「仮処分」や「仮差押」の手続きはかなり複雑で専門知識を要しますので専門家に手続きを依頼した方がよいでしょう。
財産分与の取り決めをする時期
財産分与や慰謝料を最も確実する方法は、支払いを受けるまで離婚しないことです。ことに、夫のほうが早く離婚したがっているような場合なら、妻にとって「離婚届にサインしないこと」こそ唯一の武器なのですから、夫が先に不動産の名義を変えるなり、お金を用意するなりしない限りサインしないと頑張ることです。
ところが実際には、夫婦喧嘩の勢いで離婚届にサインしてしまったが、今からでも慰謝料や財産分与が取れないだろうかという相談がよくあります。
法的には、財産分与は離婚後2年以内、慰謝料は3年以内なら請求できます。しかし、いったんい離婚が成立すると、相手方が話し合いに応じる可能性は確実に低くなります。ですから調停や裁判での決着を覚悟しておいた方がいいでしょう。
財産分与の支払いが離婚後になる場合は公正証書を作成する
財産分与や慰謝料の支払いは、なるべく離婚の前に全部の支払いを受けるに越したことはないのですが、実際には分割払いに応じざるをえなかったり、不動産が売れてからでないとお金の用意ができなかったりしてて支払いが離婚後に残る場合が出てきます。
調停や裁判で決められた条件なら、調停調書や判決に基づいて、強制執行もできるので安心なのですが、協議離婚の場合に支払いを後に残すような条件で離婚するときは注意を要します。
口約束だけでは、果たして夫が約束を守ってくれるかわからないのはもちろんですが、たとえ二人の間で、文書を取り交わせておいたとしても、その文書(私文書)だけでは直ちに強制執行まではできず、改めて文書に書かれている約束を履行せよという裁判を起こさなければならないからです。
また、二人の間だけで作った文書は、どういう状況の下に作られたかについて証人もいないので、あとで、あれは脅迫されてやむを得ず書いたものだとか、真意でなかったとかの言い分が出てきて紛争になります。
そこで、協議離婚の場合に最も有効な方法は公正証書を作成しておくことです。公正証書ならば公証人の前で約束したことですから、あとで真意でなかったなどと言えませんし、相手が金銭についての支払い約束を守らなかった場合に、直ちに公正証書による強制執行ができるからです。
財産分与を受ける側の税金
財産分与(または慰謝料)は金銭で受け取るか不動産で受け取るかを問わず”受ける側”に税金はかかりません。ですから、税金対策上も、離婚の際に受ける給付の名目は文書で明確にしておく必要があります。
また、財産分与や慰謝料の支払いを不動産で受ける場合には、登記をする際、登記原因を「財産分与」とか「慰謝料」などにする必要があります。
登記の手続きを司法書士に依頼する際に、離婚することを隠して単に「妻名義にしてほしい」と依頼したために、登記原因が「贈与」になってしまい、あとで高い贈与税を課されそうになった例がありますので注意しましょう。
財産分与を支払う側の税金
財産分与(または慰謝料)を金銭以外の資産で支払った側には、譲渡所得税がかかることがあります。財産分与をしたからといって儲けがあるわけでもないのに税金がかかるというのもおかしな話ですが、これは税法上の難しい理屈によるもので、とにかく課税されているのは事実です。
これが支障となって夫が財産分与を渋る例もありますので、そのような場合には、税理士などによく相談して解決を図るとよいでしょう。